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チャイコフスキー

ファジーネーブル

口から物を出せないという人がいた。
知り合いの女性。
口に入れた食べ物を出すということが出来ないと言うのだ。

例えばブドウの種とか皮。
ブドウを食べたら種も皮も一緒に食べてしまう。

まー、これをやっている人は結構多いと思う。
スイカも種を取らずにそのまま食べてしまう人もいるに違いない。
昔は種を食べると盲腸になると言われていた。
お腹の中に種が残って盲腸の隙間に入って盲腸になる。

お腹に種が残るとか言われて子供の頃、正直結構ビビっていた。
お腹に種が残ったら、お腹で芽が出てどんどん成長して口とか鼻の穴とか耳とかからツルがどんどん伸びて、葉っぱが開いて花が咲いてスイカが生って、スイカ人間になってしまうのではと、まじビビった。
記憶に有る人は多いと思うのだ。

でもそんなことはなくて、そのまま排泄されるからスイカを種ごととかブドウを種や皮ごと食べるっていうのは特に健康上の問題はない。
つまり、口に入れたからと言ってそれらを吐き出す必要はない。

問題なのは、柿とか枇杷の場合。
さすがにそのまま種を飲み込むと言う訳にはいかないだろう。
で、そういう食べ物を食べるときは彼女はどうするのかというと
「予め種を取り除く」
と、そういうことだそうだ。

梅干しもそうらしい。
梅肉だけを食べる。
おにぎりを作る時も梅肉だけを使って作ってそれを食べる。
決して梅干し丸ごと、種入りのおにぎりなんか作らないし食べない。
種入り梅干しのおにぎりを食べて、種を口からぺっと吐き出すという真似はしないのだと。

そこで私は、
「んじゃキミ、歯磨き、どうしてるんだよ」
って訊いてみた。
「がらがらがら、ぺって、口に入れた水、吐き出すだろ?」
「うがいで口ゆすいだりするだろ?」
「歯医者さん行ったって、治療の途中、うがいするだろ?」
って訊いてみたのだ。

そしたら、
「それ、食べ物でないから」
「私は、食べ物を口に入れたら出さないだけで、食べ物ではない場合、うがいで口に入れた水、吐き出すのは有りなのよ」
などと屁理屈を言うのだ。
ま、屁理屈かどうかは個々の判断基準によるかも知れないけれどね。

とにかく、食べ物として口にいれたものは、それは絶対に吐きださないという彼女は、或る日ピスタチオを食べたという。
生まれて初めて食べたピスタチオ。

信じられないけれど、殻ごと口の中に放り込んでしまったそうだ。
待て待て!
あの殻は、ハッキリ言って木だぞ。
あれを口にいれて噛んだ瞬間、その殻は砕けたという。
ガリッ、ガリガリ。
バキバキバキ。
ベキベキ。

もちろん、その殻を噛み砕く前に、一瞬、
「これ無理かも」
と、思ったらしい。
が、口から出すわけにはいかない。

だから噛んだ。
ガリッ、ガリガリ。
バキバキバキ。
ベキベキ。

そして、飲み込んだ。
ピスタチオ、殻ごと口の中に入れて、噛み砕いて飲み込んだ。
むろん、2個目には手を出さなかったという。
口に入れた食べ物を出したくないという理由で、ピスタチオの殻を食べてしまったという人物を私は彼女以外に知らない。

そしてこう言いたい。

クルミでなくて良かったね。



おわり